河合隼雄さんの書籍「こころの処方箋」(新潮社)で、ひときわ忘れられない章のタイトルといえば、「ふたつよいことさてないものよ」という章があり、忘れられません。
河合隼雄「こころの処方箋」(新潮社)を読んで学んだこと。
「ふたつよいことさてないものよ」
一説を引用します。
ふたつよいことさてないものよ、とわかってくると、何かよいことがあると、それとバランスする「わるい」ことの存在が前もって見えてくることが多い。それが前もって見えてくると、少なくともそれを受ける覚悟ができる。人間は同じ苦痛でも覚悟したり、わけがわかっていたりすると相当にしのぎやすいものである。あるいは、前もって積極的に引き受けることによって、難を軽くすることもできるだろう。
河合隼雄「こころの処方箋」(新潮社)より
長い人生で見ると、よいことばかり続くことは必ずないし、逆に悪いことばかり続くことも必ずない、ということがいえます。
やはり、よいこともわるいことも引き受けながら、勝ったり負けたりしながら進んでいくものです。
とはいえ、絶対に続かないわけでもありません。
よいことが連続することもあり、また、逆にわるいことが連続することだってあります。
ただ長い目でみると、そこはやはり「ふたつよいことさてないものよ」なのだろうと思います。
そう思っていると、大きく物事を受け止めることができるような気がしています。
様々な可能性を感じながら心構えを持って生きることと、何も考えずに突き進んで取り返しのつかなくなるような生き方とでは大きく異なりそうです。
河合さんの書籍では、古い慣習や儀礼などにも、一見面倒くさく感じても、相応の意味があることも多いとされています。
そう考えると、確かに、例えば、祝い事があったときに親類や隣近所にお餅を配ったりする風習も意義を感じられそうです。
判断はブレる
経営についても同じことがいえそうに思います。
よいときもわるいときもあります。
特に順調に行っているときなど、なんとなく周囲のことが見えなくなって、周りのおかげということが見えなくなって、判断がブレることなどがあるように思います。
一方、悪いときも、自身の状況しか見えなくなり、以前言っていたことを余裕がなくなって翻してしまったりしまったりすることも考えられます。
判断の「軸(ビジョン、ミッション)」を持つことが必要
そう考えると、経営判断の「軸」が必要だといえます。
「ふたつよいことさてないものよ」という考え方を持って、自分の軸足を定め、発言・行動ともブレないようにすることが、結果的に長期的にバランスよく経営していくことができそうです。
その「軸」は、「ビジョン」「ミッション」などで言語化しておくことが重要です。
「ビジョン」とは、企業における将来のあるべき姿や将来像を明文化したもので、いわば理想の状態です。”What”で端的に表されるものといえます。
「ミッション」とは、使命感を明文化したもので、”Why”で表されるものです。なぜ、理想を目指そうと思うのか、ですね。
例えば、昔話の桃太郎でいうと、以下になると思います。
桃太郎のビジョンは「鬼が退治され、平和で笑顔溢れる村にすること」になり、ミッションは「お世話になった村のみんなの平和を守ること」になると思います。
こうしてビジョンやミッションがしっかりしているからこそ、その道中の言動が一貫され、周囲のあらゆる状況を結集して理想を実現することができた、といえそうです。
こうした軸足のある経営判断の積み重ねによって、会社としての独自性を具現化することができ、差別化され、ブランド(信用)が確立されていくといえます。
経営してみると、この経営判断の「軸(ビジョン、ミッション)」の重要性を痛感するばかりです。