「過去」はAIに、「未来」は人に―AIの使いどころを時間軸で考える―

「来期はどう動くか」「値上げをいつ・どのくらい実施するか」といった問いには、AIの答えをそのまま採用する気にはなれないものです。
AIの使いどころの目安として「時間軸」、すなわち「過去に起きたことの整理はAIに任せる。これから先どうするかという方針は人が引き受ける。」と大枠の方針で考えてみると効率的であるように感じています。

過去(AIによる集計・読取り・分類・整理)と未来(人による方針決定・意思決定)を左右に対比した図解。「AIが過去を整理し、人が未来を考え決める」という役割分担を示す
目次

AIが力を発揮するのは「もう起きたこと」の整理

AI活用というと、真っ先に「効率化」という言葉が浮かびます。

でも実際に使ってみると、AIが特に強さを発揮するのは、効率化というより「過去の整理」だと感じます。

集計・分類がAIの得意領域

集計、読取り、分類、整理。

これらはすべて「すでに起きた取引を、決まったルールに沿って整理する」作業です。

ルールが明確であればあるほど、AIは力を発揮します。

人間だと、同じ作業を繰り返すうちに集中力が落ち、判断にムラが出ることがあります。

これは人間である以上、避けがたいことです。

AIにはこの「ムラ」がありません。

過去のデータからパターンを見つける

集計だけでなく、過去の傾向を読み取る作業もAIは得意です。

「この傾向は毎年この時期に出てくる」「この取引先とのやり取りは、いつもこのパターンで進む」。

こうした傾向は、データを丁寧に見れば見つけられます。

ただ、人間が何年分ものデータを目視で比較するのは、時間もかかりますし見落としも起きやすい。

AIであれば、過去数年分のデータを一気に横断して、傾向を洗い出すことができます。

「事実の整理」という意味では、AIは非常に頼りになる存在です。

実務の現場でも起きている変化

これらの過去の整理によって浮いた時間で見るのは、その業務が相手に何を「意味」するのかという部分です。

過去の整理をAIに任せられるようになったことで、初めて「考える時間」が確保できるようになった、という感覚があります。

「これからどうするか」は、AIに委ねられない

一方で、未来に向けた判断になると、話は変わってきます。

同じ売上規模・従業員数のA社とB社が、新商品開発への投資と既存商品の利益率改善という異なる道を選ぶ様子を示した図。「どちらも正解、選ぶのは経営者」というメッセージ

未来の判断には、価値観が伴う

「来期、新しい設備投資をするかどうか」

この問いに対して、AIは一般的な選択肢や過去の事例を示すことはできます。

ですが、最終的にどちらを選ぶかは、その経営者が何を大事にしているかによって変わります。

売上の最大化を優先するのか、それとも従業員の働きやすさを優先するのか。

短期的なキャッシュフローを重視するのか、長期的な信用構築を重視するのか。

たとえば、同じ売上規模の会社が2社あったとします。

一方は新しい商品の開発に投資したいと考え、もう一方は既存商品の利益率改善に集中したいと考える。

どちらも間違った選択ではありません。

AIに「どちらが正しいですか」と尋ねても、一般論としての答えしか返ってきません。

どちらも「正解」ではなく、経営者自身の価値観に基づく選択です。

AIは過去のデータからは学べても、これから先の会社をどうしたいかという意思までは持ち合わせていません。

「正解」がない問いにAIは弱い

数字を合わせる作業には、明確な正解があります。

ですが「値上げのタイミング」や「新規事業に踏み出すかどうか」には、明確な正解がありません。

同じ業種・同じ規模の会社であっても、置かれている状況や経営者の考え方によって、最適な答えは変わります。

AIに「どうすればいいですか」と聞けば、それらしい答えは返ってきます。

ただ、その答えは平均的な事例をなぞったものであり、目の前の会社の事情を汲み取ったものとは限りません。

方針を決めるという行為には、その会社にしかない文脈を踏まえた判断が必要です。

責任の所在という問題

方針を決めるということは、その結果に対して責任を負うということでもあります。

AIが提示した選択肢を採用して、うまくいかなかったとき、その責任を引き受けるのは経営者自身です。

ゆえに、方針の決定という行為そのものを、人の手から離すことはできません。

時間軸で線を引くと、経営判断がラクになる

過去の整理はAIに、未来の方針は人に。

この線引きを意識するようになってから、AI活用に対する迷いがずいぶん減りました。

左に「集計」(AIが請求書・売上データ等を自動整理)、右に「方針」(人が戦略を描き意思決定する)を配置し、集計で生まれた時間が方針を考える時間に変わる流れを示した図解

「集計」と「方針」を分けて考える

「AIに経営判断まで任せられるのだろうか」と身構えてしまうと、導入自体に及び腰になってしまう。

ですが、任せるべきは集計や整理の部分であって、方針の決定ではありません。

この線を引いてから任せる範囲を決めると、AI活用のハードルはぐっと下がります。

AIに任せる部分を増やすほど、考える時間が増える

過去の整理にかかっていた時間をAIに任せられれば、その分、未来を考える時間が生まれます。

数字を集計するために費やしていた時間を、その数字が意味することを考える時間に変えられる。

これは単なる効率化ではなく、経営者としての時間の使い方そのものを変える話だと感じます。

経営判断の場面でも同じ線が引ける

過去の資金繰り実績を整理する作業であれば、AIに任せれば短時間で終わります。

ですが「来期、いくらまで設備投資に回せるか」「値上げを何月から始めるか」という問いには、経営者が自分の言葉で答えを出すしかありません。

数字の整理が早く終わるほど、この問いに向き合う時間を長く取れるようになります。

小さく試してみる

いきなりすべての業務をAIに任せる必要はなく、まずは毎月の集計作業や資料整理といった「過去を扱う」業務から試してみる。

そこで手応えを感じられれば、任せる範囲を少しずつ広げていく。

方針を決めるという最後の一歩さえ人が握っていれば、AIに任せる範囲を広げることを恐れる必要もありません。

おわりに

集計や記録といった「過去の整理」はAIに任せ、方針や価値判断といった「未来をどうするか」は自分の手元に残す。

この時間軸での線引きを意識するだけで、AI活用に対する向き合い方は大きく変わります。

すべてを一気に任せようとせず、まず「過去」の部分から手放してみる。

そこで生まれた時間を、「これからどうするか」を考えることに使ってみることで、違う時間の使い方が見えてくる気がしています。

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この記事を書いた人

長崎で活動する
税理士、キャッシュフローコーチ

酒井寛志税理士事務所/税理士
㈱アンジェラス通り会計事務所/代表取締役

Gemini・ChatGPT・Claudeなど
×GoogleWorkspace×クラウド会計ソフトfreeeの活用法を研究する一方、
税務・資金繰り・マーケティングから
ガジェット・おすすめイベントまで、
税理士の視点で幅広く情報発信中

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