AIで広告のクリエイティブを作ってみたら、思いがけず良いものが出てきた!ところが、その”反応の良さ”を踏まえて改善しようとした途端、思い通りにいかなくなる。何度やり直しても、最初の感触に戻れない。AI活用が広がるなか、こうした”再現性の壁”にぶつかる人も増えています。
仕事の始め方が変わった—AIエージェント前提時代の落とし穴—
まずは、私たちが今どんな時代の入り口に立っているのか。
“AIに任せる”ことを前提にスタートする時代
少し前まで、新しい業務を始めるときの選択肢は、ほぼ2つでした。
自分で勉強して取り組むか、専門業者に外注するか。
ところが今、ここに3つ目の選択肢が加わりました。
しかもそれが、出発点の位置に座りつつあります。
“AIエージェント(自律的にタスクを進めるAIの仕組み)に任せる前提で仕組みを作る”という発想です。
広告クリエイティブを使った集客を始める場合。
これまでは制作会社や運用代理店に頼むか、自分で運用ノウハウを身につけるかの2択でした。
今は、最初の段階からAIに相談し、構成案・素材の生成・配信後のデータ分析まで、一連の流れを組み立てていく入り方が現実的になっています。
ここで起きているのは、単なるツールの追加ではありません。
“何かを始めるとき、まずAIに相談する”。
この前提が固まってきたこと自体が、新しいスタンダードになりつつあるといえそうです。
そして、この前提で動ける人と動けない人の間に、コスト・スピード・展開力という面で、無視できない差が広がり始めています。
それでも起きる”まぐれ当たり”の構造
ところが、ここに落とし穴があります。
AIに任せる前提で仕事を始めても、出てくるものの質が安定しないのです。
同じような指示を出しているのに、出力にばらつきが生まれる。
たまたま素晴らしいものが出てくる日もあれば、何度やり直しても凡庸な結果しか返ってこない日もある。
AIは確率的に出力を生成する仕組みなので、毎回まったく同じものを出さないこと自体は、ある意味”仕様”といえます。
問題は、その落差を経営者の側がコントロールしづらいという点。
良いものが出たとき”なぜ良かったのか”が分からず、イマイチなとき”どこを直せばいいのか”も見えない。
通常の業務なら、結果を見て原因を分析し、次の打ち手を考える流れがあります。
たとえばチラシを印刷会社に発注した場合。構成・コピー・色使い・写真選びを1つずつ見直して、次の発注に活かせます。
ところがAIに丸ごと任せると、どの要素が結果に効いているのか、その切り分けが極めて難しくなります。
なんとなく良かった、なんとなくダメだった。
そんな主観的な評価だけが残り、出力は”まぐれ当たり”の連続になりがちです。
AIエージェント前提で動ける人が有利になる時代。
だからこそ、ただ任せるだけでは届かない領域があるという認識が、より大事になってくるかもしれません。

再現性を取り戻すには—任せ方の設計が鍵—
時代の追い風があるからこそ、AIへの”任せ方”そのものを設計しておきたいところです。
どこまでAIに任せ、どこから自分が判断するか
1つ目のポイントは、業務のなかで”AIに任せる範囲”と”自分が判断する範囲”を切り分けること。
すべてを丸投げするのではなく、工程を分解して、それぞれの工程で人間のコントロール下に残す要素を、意識的に持っておく。
広告クリエイティブなら、ターゲット選定・訴求軸の決定・コピーの骨格づくりまでは自分で固めておく。
その先のビジュアル展開や言い回しの磨き込みをAIに任せる。
こうした分業の仕方があり得ます。
すると、出力が良かったときも悪かったときも、”何が効いていたか”を判断する基準を、自分のなかに持てます。
AIに任せる範囲を絞り込むほど、改善の手がかりは明確になっていく。
そして同時に、出力結果を次に活かすための”記録”の仕組みも、業務フローに組み込んでおきたいところです。
AIに渡した指示・参考にした素材・出てきた結果・その評価。
簡単な形でも構わないので、残しておく。
次に同じ種類の業務へ取り組むとき、前回の記録を参照しながら指示を組み立てる。
外から入ってくるものを、ただ受け入れるのではない。
何を取り入れ、何を選ばないかを記録し、次に活かす。
“人に頼む”ことの意味も、形を変えて残る
2つ目のポイントは、”あえて人に頼む”という選択肢を、設計のなかにどう位置づけるか。
AIに任せたほうが速くて安い。
それでも、あえて人にお金を払って依頼することに、どんな意味が残るのか。
ここに2つの角度があると考えられます。
1つは、心理的な”強制力”という側面。
AIには、使わなくても誰にも迷惑がかかりません。
ところが人にお金を払って依頼すると、相手が動いてくれたからにはこちらも動かないと、という圧が働きます。
自分1人ではなかなか進まない案件を、あえて人に託すことで、自分の側の動きを引き出す。
この”強制力”を業務フローに組み込む発想は、案外見落とされがちです。
もう1つは、相手の成長を支援するという側面。
何でもAIに丸投げするのではなく、あえて人に仕事を依頼することで、その人のスキルが磨かれ、関係性が育っていく。
長く付き合っていく取引先や仲間がいる事業なら、この視点は捨てがたいものがあります。
つまり、再現性のある業務フローを設計するというのは、“AIに何を任せるか”だけの話ではありません。
“自分は何を握り続けるか”。
そして“あえて人に頼むことで、何を生み出すか”。
この3つをセットで考える作業だといえそうです。

プロンプトの先にある”スキル”という選択肢—ただし、まだ模索中—
任せ方の設計が鍵だとして、では具体的にどう実装するか。
最近注目され始めているのが、”スキル”という考え方です。
精緻なプロンプトだけでは追いつかない領域
AIの出力を安定させる方法として、まず思い浮かぶのは”精緻なプロンプト”を組むこと。
指示文を細かく書き込み、条件や制約を漏れなく伝えれば、出力もそれに見合うはず、という発想です。
ただ、この方法には限界があります。
毎回ゼロからプロンプトを組み立てるのは、負担が大きい。
書き手の調子や言い回しのブレで、出力もブレてしまう。
複雑な業務になるほど、指示文だけでは伝えきれない要素が増えていきます。
指示文という”言葉”だけで安定性を担保しようとすること自体に、そもそも無理があるのかもしれません。
“スキル”はプロンプト・スクリプト・テンプレート・参考資料の束
ここで言う”スキル”は、プロンプト単体ではありません。
それを支える複数の要素を、ひとつのパッケージにした仕組みのこと。
これは、Claudeに実装されている“スキル(Skills)”という機能を念頭に置いています。
具体的には、4つの要素で構成されます。
1つ目は、指示書にあたるファイル(SKILL.md)。
スキルの名前・目的・AIが動くときの手順を記したもので、プロンプトに相当する、もっとも重要な必須ファイルです。
2つ目は、処理を自動化するスクリプト(scripts)。
Pythonなどのコードを格納しておき、計算やデータ変換といった作業を自動で肩代わりさせます。
3つ目は、判断の基準となる参考資料(references)。
業務のガイドラインやマニュアルなど、AIが正しく判断するために読み込む資料を入れておきます。
4つ目は、成果物の素材となるテンプレート(assets)。
出力時に使うドキュメントのひな形やロゴ画像といった素材データを格納しておく場所です。
指示書・処理プログラム・参考資料・素材。
この4つを束ねて、1つの単位として運用する。
それによって、毎回同じ手順・同じ品質・同じ形式で出力が出てくる確率が、ぐっと上がります。
ただ、とはいえ、”スキル”も万能ではありません。
提案書・ニュースレター・データ整理のように、形式が決まっていて評価軸も明確な業務には、強い力を発揮します。
一方で、広告クリエイティブの”キレ”や、画像生成の美的判断のように、評価軸そのものが曖昧な領域では、効果は限定的になりがちです。
そもそも、スキルを作り込むにも、それなりのコストがかかります。
頻度の低い業務にまで作り込むと、整備の手間が便益を上回ってしまう。
どの業務をスキル化し、どの業務はあえてその都度AIに任せるか。
このバランスをどう取るかについては、正直なところ、まだ手探りで模索している段階です。
AIを業務に組み込むという話は、”どんなプロンプトを書くか”だけでは語り切れない。
業務全体を、どこまで自分の手のなかに残し、どこから外に出すか。
その設計の妙味こそが、これからのAI活用の核心になっていくと考えています。

