宝くじを買うとき、当せんする確率をきちんと計算してから財布を開く人は、ほとんどいません。
スマートフォンのゲームに課金するとき、ほしいアイテムが出てくる確率を電卓で確かめる人も、まずいないでしょう。
それでも、宝くじもゲーム課金も、世の中で長く売れ続けています。
また、めったに起きない事故や病気にそなえて、毎月の保険料を払い続ける人はたくさんいます。
家電量販店で「延長保証はいかがですか」とすすめられ、つい申し込んだ経験のある方も多いはず。
宝くじ・ゲーム課金と、保険・延長保証は、同じ一つの事実の上に成り立っています。
それは、人はお金にまつわる確率を、そのまま冷静には受け取れない、ということです。
事業家bot著「金儲けのレシピ」(実業之日本社)を参考にして。
ビジネスモデルあれこれ
- 集客より関係性、LTVが商売の土台
- 消費者から購入する
- セルフサービス
- スケールメリット、スモールメリット
- 「1対多」
- 両面に課金する
- 砂糖を売る
- 確率を設計する
- 雰囲気を売る
- 意思決定を支援する
- 仕入れを工夫する
- 贈答品を売る
- 高くて良いもの
- 権威になる
- コアファン共鳴型
- 仕組みそのものを売る
「得したい」気持ちが、人をお金に向かわせる
1つめの感情、「得したい」という気持ちから見ていきます。
計算すれば割に合わないのに、買ってしまう
宝くじや公営の賭けごとには、ある共通点があります。
それは、参加した人たち全体で見れば、払ったお金の合計よりも、戻ってくるお金の合計のほうが少なくなるように作られている、ということです。
胴元(主催する側)が、必ず一定の割合を受け取るからです。
つまり期待値、すなわち払ったお金に対して平均でどれくらい戻ってくるかという見込みで考えると、参加するほど平均的には目減りしていく仕組みになっています。
それでも人が買うのは、「”もし当たったら”という大きな見返りへの期待」が、冷静な計算を上回るからです。
この、思いがけない大きな利益を期待する気持ちを、「射幸心」と呼びます。
少ない掛け金で、大きな夢を見られる設計
宝くじや公営の賭けごとは、少ないお金で大きな当たりを狙える形になっています。
当たる確率そのものは低くても、当たったときの金額が大きいほど、人の心は強く引き寄せられます。
「これだけの金額が、もしかしたら手に入るかもしれない」という想像が、数百円という入り口の安さと組み合わさったとき、財布のひもはゆるんでしまうのです。
ゲームの課金も、根っこは同じ
スマートフォンのゲームでよく見かける「ガチャ」、すなわちくじを引くようにアイテムを手に入れる仕組みも、構造はまったく同じです。
何が出るかわからないワクワクに、人はお金を払います。
子どもの頃に夢中になった、シールつきのお菓子や、絵柄を集めるカードゲームを思い出してみてください。
中身そのものより、封を開ける瞬間、引く瞬間の期待にこそ、価値が生まれていたのではないでしょうか。
夢を見る楽しみ、引く瞬間のときめきは、それ自体が人生のうるおいでもあります。
ポイントは、気持ちの存在そのものではなく、確率を見ないまま気持ちだけで走り続けてしまうことにあります。
「損したくない」気持ちが、別のお金を動かす
もう1つの感情、「損したくない」という気持ちに移ります。
得る喜びより、失う痛みのほうが大きい
人は不思議なもので、同じ1万円でも、もらえたときの喜びより、失ったときの痛みのほうを大きく感じます。
1万円を拾ったうれしさより、1万円を落としたショックのほうが、心に長く残るのです。
この、損を避けたい気持ちが得をしたい気持ちより強く働く性質を、「損失回避性」と呼びます。
保険という仕組みが成り立つ理由
保険は、この損失回避性の上に成り立つ、代表的な仕組みです。
「もし病気になったら」「もし事故にあったら」という、めったに起きないけれど起きたら大きい損失への不安に、毎月のお金で備える。
これが保険の基本的な形です。
保険には、いざというときに暮らしや事業を支え、不安を小さくしてくれる、まっとうな役割があります。
注目したいのは、その役割が、人の「損したくない」という気持ちとぴたりとかみ合っているという点です。
延長保証や、高価な品物の安心料
家電の延長保証や、高価な製品の保証延長も、同じ気持ちに寄り添っています。
「せっかく買ったのに、壊れたら困る」という痛みを避けたい気持ちに、安心料を払う形です。
冷静に故障の確率を見積もるより、痛みを避けたい気持ちが先に立つ。
だからこそ、こうした安心の上乗せはすんなり受け入れられやすいのです。
ポイントは、起きる確率を一度も見ないまま、不安だけを理由に決めてしまうことにあります。
人は確率を、そのまま受け取れない
ここまで見てきた2つの感情の裏には、共通する1つの事実があります。
”人は確率をありのままには受け取れない”、ということです。
合理的な計算と、現実の心はずれている
かつての経済学は、人は損得を冷静に計算して動く存在だと考えていました。
けれど実際の人は、感情によって確率の受け取り方をゆがめます。
この、人が利益と損失をどう感じ、どう選ぶかを説明する行動経済学の考え方は、プロスペクト理論として知られています。
人は得の喜びより損の痛みを大きく感じ、確率を正しく見積もれない、ということ。

低い確率を、実際より大きく感じてしまう
人は、めったに起きないことを、実際の確率より大きく意識してしまう傾向があります。
宝くじの「当たるかもしれない」も、保険の「起きたら大変だ」も、どちらも本当の確率以上に、心を強く動かします。
得る方向にも失う方向にも、確率のものさしが、感情でゆがむ。
これが、2つの感情に共通する仕組みの正体です。
2つの感情は、表と裏でつながっている
「得したい」と「損したくない」は、一枚のコインの両面
射幸心は、得への期待です。
損失回避性は、損への恐れです。
向きはちょうど逆ですが、どちらも「確率を冷静に見られない」という、同じ根から伸びています。
得たい気持ちと失いたくない気持ちは、別々のものに見えて、実は一枚のコインの表と裏なのです。
だから、売れる仕組みは似てくる
宝くじもガチャも、保険も延長保証も、やっていることはよく似ています。
人の感情に働きかけて、確率の計算をいったん脇に置かせる。
攻めの欲と、守りの恐れ。
入り口はまるで違うのに、使っている心の動きは同じところに行き着きます。
商品の設計に、静かに織り込まれている
世の中の多くの商品やサービスは、この二つの感情のどちらか、あるいは両方に、自然と寄り添う形で設計されています。
それは特別に悪意のあることではなく、人に選んでもらうための、ごく一般的な工夫でもあります。
だからこそ、作る側にも買う側にも、この仕組みを知っておく価値があります。
知っておくと、惑わされず、誠実に使える
自分自身が惑わされないために
経営者の判断にも、同じように働きます。
赤字が続く事業からなかなか抜け出せないのは、損を確定させたくないという損失回避性が、撤退の判断をにぶらせているからかもしれません。
「これに乗れば一気に挽回できる」といううまい話に心が動くのは、射幸心が冷静さを上回っているからかもしれません。
こういうときに効くのは、まさに数字で確かめる習慣です。
期待値はどうか、現金の流れはどうか、最悪のときいくら失うのか。
感情がアクセルを踏みそうになったとき、数字が静かなブレーキになるのです。
お客様に誠実に向き合うために
お客様が何を不安に思い、何に期待しているのかを理解できれば、納得して選んでいただける伝え方が見えてきます。
例えば、起きる確率と、起きたときの備えを、両方ていねいに示す。
期待だけでなく、現実的な見通しもあわせて伝える。
知識は、使い方で色が変わる
人の感情にまつわるこのような知識は、あおるために使えば信頼をけずり、理解のために使えば信頼を育てます。
どちらに使うかは、経営者一人ひとりの構えにかかっています。
数字で確かめる目と、誠実に使う構え。
この2つを持てば、人の感情にまつわる知識は、振り回されるための弱点ではなく、惑わされないための知恵に変わります。
宝くじもガチャも保険も同じ仕組みで売れている、という事実をただ知るだけでなく、その仕組みとどう付き合うかまで考えられたとき、知識がようやく力になると考えられます。
