毎月のように顔を出してくれる、あの常連のお客様。その人を、自社の「ファン」だと言い切れるか。その人は、ただ「近いから」「安いから」「便利だから」通っているだけかもしれません。もしそうなら、もっと近くて、もっと安い店が現れた瞬間に、すっと離れていきます。
一方で、本当のファンは違います。多少高くても、多少不便でも、その会社を選び続けます。
この「離れにくさ」が、実は決算書の3か所を、静かに、しかし確実に変えていきます。
事業家bot著「金儲けのレシピ」(実業之日本社)を参考にして。
ビジネスモデルあれこれ
- 集客より関係性、LTVが商売の土台
- 消費者から購入する
- セルフサービス
- スケールメリット、スモールメリット
- 「1対多」
- 両面に課金する
- 砂糖を売る
- 確率を設計する
- 雰囲気を売る
- 意思決定を支援する
- 仕入れを工夫する
- 贈答品を売る
- 高くて良いもの
- 権威になる
- コアファン共鳴型
- 仕組みそのものを売る
リピーターとファンは、似て非なるもの
よく買う人と、好きな人は別物
リピーター、つまり繰り返し買ってくれる人が、必ずしもファンとは限りません。
購入の回数が多くても、その理由が「価格」や「利便性」であることは、よくあります。
例えば、通勤路の途中にあるという理由だけで通っているコーヒー店。
味やお店の姿勢に惚れ込んでいるわけではなく、ただ動線の上にあるから寄っている。
これはリピーターではありますが、ファンとは呼びにくい関係です。
ファンとは、その会社の考え方や世界観に共感し、価格や利便性を超えて選んでくれる人を指します。
購入の頻度だけを見て「うちにはファンが多い」と判断すると、足元を見誤ってしまいます。
ファンは、価格が理由で離れない
この違いがはっきり出るのが、ライバルが値下げを仕掛けてきたときです。
価格でつながっているだけのお客様は、より安い選択肢が現れれば、ためらいなく移っていきます。
つなぎ止めようとすれば、こちらも値下げで応戦するしかなく、消耗戦に引きずり込まれます。
ところがファンは、そもそも価格を一番の理由にしていません。
だから、ライバルの値下げに動じにくい。
この「動じなさ」が、後で見る利益率の話に効いてきます。
この違いが、なぜお金に関わるのか
リピーターとファンの違いは、気持ちの問題に見えて、実は財務の問題です。
ファンは、自分から宣伝してくれます。
ファンは、値引きを求めません。
ファンは、長く付き合ってくれます。
この3つが、これから見ていく「決算書の3か所」に、それぞれ対応します。

1か所目 ― 広告費が下がる
リピーターとファンの違いがわかったところで、それが決算書のどこに最初に効くのか。
最初に変わるのは、新しいお客様を連れてくるためのコストです。
新しいお客様を1人連れてくる「値段」
新規のお客様を1人獲得するのに、いくらかかっているか。
これを表す言葉に、顧客獲得コスト(CAC)があります。
広告費、チラシ代、紹介手数料、営業の人件費。
こうした費用を、その期に増えた新規客の数で割ると、一人あたりの「獲得の値段」が見えてきます。
多くの中小企業にとって、この値段は年々重くなっています。
情報があふれ、広告が以前ほど効かなくなっているからです。
ファンは、頼まなくても宣伝してくれる
ファンは、お金を払って宣伝を頼まなくても、自分から「あそこは良いよ」と人に伝えてくれます。
SNSへの投稿、友人への口コミ、家族への紹介。
こうした熱のこもった声は、企業が出す広告よりも信頼されやすいといわれています。
紹介で来たお客様の獲得コストは、広告で連れてきた場合に比べて、大きく下がります。
広告費という出ていくお金の一部を、ファンの好意が肩代わりしてくれるのです。
「1:5の法則」を、自社の数字に当てはめる
マーケティングの世界には、経験則として知られる「1:5の法則」があります。
新しいお客様を1人獲得するコストは、既存のお客様を1人維持するコストの、およそ5倍かかるという考え方です。
正確な比率は業種によって変わりますが、向いている方向ははっきりしています。
新規を追い続けるより、すでにいるお客様をファンに育てるほうが、お金の効率が良いということ。
これが、決算書が変わる1か所目です。

2か所目 ― 利益率が上がる
2か所目は、商品やサービスを売る「値段」そのものに関わってきます。
ファンは、値引きを待たない
価格でつながっているお客様は、セールやクーポンを待ちます。
「いつ安くなるか」を見ていて、定価では動きません。
ファンは違います。
その会社だから、その商品だから買う。
値引きを待つのではなく、適正な価格で、納得して買ってくれます。
値引きをせずに売れるということは、1つ売るごとに手元へ残る利益、つまり粗利が厚くなるということです。
「安いから買う」客は、「もっと安い店」へ行く
値引きで集めたお客様は、値引きでしかつなぎ止められません。
価格だけが理由でやって来た人は、価格だけが理由で去っていきます。
そして去り際に、こちらの利益率を削っていきます。
これは、終わりの見えない消耗戦です。
体力のある大企業ならまだしも、中小企業がこの戦い方を続けると、売上はあっても利益が残らない状態に陥りがちです。
ブランド力という、見えない値札
なぜファンは、値引きなしでも買ってくれるのか。
そこに「ブランド力」という、目には見えない値札が効いているからです。
ブランド力とは、平たく言えば「この会社だから安心して任せられる」という信頼の積み重ねです。
この信頼があると、お客様は価格以外の理由で選んでくれます。
安売り競争から一歩外に出られる。
老舗の暖簾(のれん)が、同じ品物でも少し高く売れる力を持っているのと同じです。
暖簾という見えない資産が、価格を下から支えている。
ファンビジネスは、この暖簾を意図して育てていく経営とも言えます。
利益率が守られるということが、決算書が変わる2か所目です。
3か所目 ― 売上が安定する
3か所目に変わるのは、売上の「揺れにくさ」です。
売上の土台を支える、2割の人たち
「パレートの法則」という経験則があります。
売上の8割は、全体の2割のお客様が生み出している、という考え方です。
これも比率は会社によって異なりますが、多くの事業で、一部の優良なお客様が売上の大きな部分を支えている傾向が見られます。
そして、その2割の中心にいるのが、ファンなのです。
パレートの法則を、経営の地図にする
この法則が教えてくれるのは、「全員を等しく追いかけなくてよい」という割り切りです。
新規を広く浅く追い続けるより、売上の土台を支える2割を見極めて、その人たちとの関係を深める。
そのほうが売上は安定します。
景気が揺れても、流行が変わっても、ファンは簡単には離れません。
この「揺れにくい土台」があると、来月、再来月の売上が読みやすくなります。
売上が読めるということは、資金繰りが立てやすくなるということにもなります。
誰が自社のファンかを、数字で見つける
ただ、”ファンを大事に”と言いながらも、肝心の”誰がファンなのか”を把握できていない会社が、とても多いのです。
ファンは気持ちの問題ですが、見つけ出すのは数字の作業です。
購入の回数、付き合いの長さ、紹介してくれた人数。
こうしたデータを並べると、感覚では見えなかった「本当の2割」が浮かび上がってきます。
見えない好意を、見える数字へ翻訳する。
これができると、売上の安定という3か所目の変化を、狙って起こせるようになります。

ただし、ファンビジネスには落とし穴がある
ここまで、お客様をファンに変えることの良い面を見てきました。
ファンに尽くしすぎると、本業がやせる
ファンとの距離が近くなると、その声がよく聞こえるようになります。
これは大きな財産ですが、聞こえすぎることの危うさもあります。
一部の熱心なファンの要望に応えすぎて、本来進むべき方向を見失う。
気づけば、声の大きい少数のために、商品やサービスを作り変えてしまっている。
ひいきのお客様を喜ばせることと、事業として正しい判断をすることは、いつも一致するとは限りません。
ファンの声は、貴重な情報であると同時に、振り回されると経営の軸を曲げる力も持っています。
一人のカリスマに頼る危うさ
中小企業のファンビジネスには、もう一つ固有のリスクがあります。
ファンが、会社ではなく「社長個人」についていることが多い、という点です。
社長の人柄や発信に惹かれてファンになった場合、その魅力が会社の仕組みに移し替えられていないと、社長が一線を退いた途端にファンも離れていきます。
かつて、一人の傑出した武将のカリスマだけで急拡大した勢力が、その人物を失った途端に一代で崩れていった例が、日本の歴史にはいくつもあります。
個人の輝きは強い武器ですが、それだけに頼ると、組織はもろくなります。
ファンを「社長のファン」から「会社のファン」へと育てていく。
これが、ファンビジネスを長続きさせるための、地味だが大切な仕事です。
「ファン」と「数字」を、両手で持つ
ファンビジネスの本質は、感情と数字のどちらか一方ではありません。
お客様の好意という温かいものと、決算書という冷たいもの。この両方を、両手にしっかり持つこと。
好意だけを見ていると、経営は感傷に流されます。
数字だけを見ていると、お客様の心が離れていきます。
お客様の「好き」が、広告費を肩代わりし、利益率を守り、売上を安定させる。
その流れを数字で確かめながら、好意そのものは大切に育てていく。
この両立ができたとき、ファンビジネスは、決算書を静かに、しかし力強く変えていきます。
毎月顔を出してくれる、あの常連のお客様。
あの人は、リピーターか、それともファンか。
その問いを持つことが、すべての出発点になります。
