生成AIの進化は速く、これまで人が時間をかけていた作業の多くを、AIが代わりにこなしてくれるようになりました。
ほんの数年前まで人が時間をかけてこなしていた作業が、今では驚くほど自然にAIに置き換わりつつあります。
こうした作業は、AIに任せれば数分で終わるものの、いざAIが出した答えをそのまま相手に渡してみると、なぜか「伝わらない」ということが起きます。
AIが担える範囲がどんどん広がっていく中で、それでも人にしかできない部分がどこにあるのかということを、物流でよく言われる「ラストワンマイル」という視点から考えてみます。
AIが担う範囲は、想像以上に広がっている
物流の「ラストワンマイル」という考え方
ラストワンマイルという言葉は、もともと物流業界で使われてきた表現です。
工場から倉庫まで、倉庫から地域の拠点までは、大量の荷物をまとめて効率よく運べます。
ところが、拠点から一軒一軒の玄関先まで届ける最後の区間だけは、どうしても手間がかかります。
道は入り組んでいますし、荷物一つひとつの届け先も違いますし、時には受け取る人と直接顔を合わせる必要もあります。
全体の距離としてはごくわずかなのに、コストと手間が集中するのが、このラストワンマイルです。
今、生成AIが担ってくれる範囲は、まさに「工場から拠点まで」の部分だと感じています。

AIがすでにこなせるようになった仕事
情報を集めて整理する、選択肢を洗い出す、たたき台を作る。
さらに、文章を読みやすく整えたり、抜け漏れがないかを確認したり、複数の案を短時間で比較したりすることも、AIが得意とする領域です。
こうした作業は、AIに任せることで、以前とは比べものにならないスピードで進むようになりました。
実際に日々の実務でAIを使っていても、「ここまでやってくれるのか」と驚く場面が増えています。
以前なら準備だけで一日仕事だった打ち合わせも、AIに下調べや資料整理を任せることで、当日までにいくつもの選択肢を用意できるようになりました。
その一方で、AIがどれだけ精度の高い答えを出せるようになっても、それだけでは仕事が完結しないという場面にも、たびたび出くわします。
だからこそ、次に気になってくるのが、「では、AIが届かない部分はどこなのか」という問いです。
ラストワンマイルには、少なくとも3つの役割がある
AIが出してくれる答えは、多くの場合、内容として間違っていません。
けれども、その答えをそのまま相手に渡すだけでは、うまくいかないことがあります。
そこには、少なくとも3つの役割が関わっていると感じています。
感情的なニュアンスを読み取る役割
1つ目は、感情的なニュアンスを読み取る役割です。
同じ言葉でも、誰が、どんな表情で、どんな状況で発したかによって、意味合いは大きく変わります。
AIは言葉として表れた情報は正確に扱えますが、その場の空気や、相手が本当に言いたかったことまでは、まだ十分に汲み取れません。
たとえば同じ「大丈夫です」という一言でも、安心して言っているのか、本当は困っているのに遠慮して言っているのかは、声のトーンや表情を見なければ判断できません。
情報収集係としての役割
2つ目は、情報収集係としての役割です。
AIは与えられた情報の中では優秀に働きますが、「何を聞くべきか」「どの情報が本当に必要か」を見極めるところは、人の役割として残ります。
AIに「必要な情報をまとめて」と頼んでも、そもそも何が課題なのかがはっきりしていなければ、的外れな整理になってしまいます。
本当に困っていることは、本人もうまく言葉にできていないことが多く、現場に足を運び、雑談や表情の変化の中から拾い上げていく必要があります。
この部分があってはじめて、AIは正しい答えを出せるようになります。
AIの答えを相手向けに翻訳する役割
3つ目は、AIの答えを相手向けに翻訳する役割です。

同じ内容でも、相手の理解度や立場によって、伝え方は変わるはずです。
専門用語をそのまま伝えるべき相手もいれば、たとえ話に置き換えたほうが伝わる相手もいます。
数字が得意な相手には数字で語り、感覚で判断したい相手にはたとえ話で語ったほうが、同じ結論でも納得感はまったく違ってきます。
AIが出した正しい答えを、相手が受け入れやすい形に翻訳し直す。
このひと手間があるかどうかで、同じ内容でも伝わり方はまったく違うものになると感じています。
AIを使いはじめてから一番時間をかけるようになったのは、この翻訳の精度を上げる作業だったりします。
人の役割はなくなるのではなく、変わっていく
浮いた時間を、どこに使うか
こうして見ていくと、AIが仕事の多くを担ってくれるようになったことは、人の仕事が減ることを意味しているわけではなさそうです。
むしろ、これまで情報整理や下書き作成に費やしていた時間が浮いた分、ラストワンマイルにあたる部分に、より多くの時間をかけられるようになったとも言えます。
相手の表情を見ながら話す時間。
現場に足を運んで、雑談の中から本音を拾う時間。
AIが出した答えを、目の前の相手に合わせて伝え直す時間。
こうした時間は、これまで後回しにされがちだった部分でもあります。
AIに仕事を任せられるようになったことで、逆に「この仕事は誰のためにやっているのか」を考える時間が増えた、という声を聞くこともあります。
効率化そのものが目的ではなく、浮いた時間を使って、相手にどう向き合うかを考えられるようになった、という変化なのかもしれません。
AIをどう使いこなすかという点に関心が向きがちですが、それと同じくらい、AIが届かない部分にどう向き合うかが、これからの差別化のポイントになっていく気がしています。
人間の役割は、AIへのインプットのために情報を集める・AIのアウトプットを相手が納得できる形に落とし込む、といったことになるのかもしれません。
これから大きな差になっていくもの
AIにどれだけ多くの仕事を任せられるようになったとしても、翻訳の精度をさらに上げていったとしても、最後に相手の心を動かすのは、人が担うラストワンマイルの部分です。
これから先は、AIをうまく使いこなすように努力するほか、このラストワンマイルにどれだけ丁寧に向き合えるかのほうが、大きな差を生むようになっていくのかもしれません。
AIに仕事を任せられる時代だからこそ、人にしかできないラストワンマイルの価値は、これまで以上に大きくなっていくと感じています。
