電子帳簿保存法とクラウド⑩

電子帳簿保存法については、令和2年度、令和3年度、令和5年度に大きな改正(とその緩和)が入りました。

戸村涼子著「クラウド会計を活用した電子帳簿保存法対応の実務」(日本法令)を参考として。

目次

電子帳簿保存法とは

電子帳簿保存法そのものは歴史は比較的古く、平成10年度税制改正によって誕生しています。

ただ、かつては要件が細かく負荷もかかるものであったため、令和3年度税制改正以前は、一部の事業者のみで利用されていたもの、という印象があります。

全事業者の強制適用という形で注目が集まったのは、令和3年度税制改正でした。

電子データで受領している請求書等について、これまでは紙保存が認められていたため、”とりあえず証憑関連はすべて紙保存しておけばよい”という考え方で進むことができていました。

令和3年度税制改正においては、証憑を3区分に分けたうえで、そのうちの電子データについては電子データ保存(+細かな保存要件等)が強制、紙保存不可とされたのでした。

国税庁「電子帳簿等保存制度特設サイト」より

令和3年度税制改正の内容については、全事業者強制となる電子データについて、特に保存要件等の充足のための煩雑な対応が求められることもあり、その後の令和4年度税制改正において猶予期間が設けられ令和5年度税制改正において新たな緩和措置が設けられています。

電子帳簿保存法の全体像

電子帳簿保存法の全体像をまとめると、以下のようになります。

電子帳簿保存法とクラウド・クラウド会計との関連性を中心に、どのように対応の余地があるか考えてみました。

契約書と電子帳簿保存法

事業で重要な書類である「契約書」も、電子帳簿保存法の重要な対象書類です。

自社が発行する「契約書」
他社から受領する「契約書」
  • 紙で発行
    →電子帳簿保存法(スキャナ保存)を利用するかどうか
  • 電子契約
    →電子帳簿保存法(帳簿書類電子保存)を利用するかどうか
  • 紙で受領
    →電子帳簿保存法(スキャナ保存)を利用するかどうか
  • 電子契約
    →電子帳簿保存法(電子取引保存)を利用するかどうか

上記のとおり、どのように発行するか・受領するかによって、電子帳簿保存法のなかでも適用させる区分は異なるものとなり、それぞれの要件を満たすかについての検討が必要にはなります。

電子契約のメリット

電子契約というものが登場してきていますが、これまでの紙の契約と比べて、どのようなメリットがあるのか。

まずは法的有効性

契約の前提として、双方の合意があれば契約は成立するものとされており、その合意事項の記録として”契約書”が存在しています。

ここでは、印鑑そのものに法的有効性があるものではないとされており、代わりに、メール認証やタイムスタンプなどによって、双方の合意の記録の法的有効性を担保しているのが電子契約となります。

これについて、デジタル庁はQ&Aを出しており、クラウド型電子署名でも有効性を満たすものと解説されています。

諸メリットの前提としての法的有効性につき、電子署名でもこれを満たすと考えられています。

手間がかからない

紙であれば、製本、押印、郵送、返送、保管、という工程があり、かなり負担です。

電子契約であれば、これらの工程の大部分を効率化することができます。

印紙税について

印紙税は、その課税対象を「文書」としており、電子契約は文書ではないことから印紙税は不要と解されています。

電子契約を電子帳簿保存法でどう扱うか

電子契約を導入することとし、なおかつ、その電子契約を電子帳簿保存法に基づいて管理しようとする場合、どのような対応が考えられるか。

大きく分けて、以下のパターンが考えられます。

自社が発行
他社から受領
  • 「クラウド会計ソフトのシリーズ」を使用する場合
  • 「クラウド会計ソフトのシリーズ以外」を使用する場合
  • 書面で受領する場合

  • システム(データ)で受領する場合

【自社が発行】「クラウド会計ソフトのシリーズ」を使用する場合

契約書を自社が発行する場合で、クラウド会計ソフトのシリーズの電子契約システムを使用するとした場合、電子帳簿保存法に基づいて保管するとしたらどのような対処になるか。

freeeであれば「freeeサイン」、マネーフォワードであれば「マネーフォワードクラウド契約」というシリーズソフトが出ています。

これらを使用した場合、締結後の契約書データは、それぞれのソフト内のストレージに保管されることになります。

この場合は、電子帳簿保存法の「書類の電子保存」という区分に基づいて、保管する可能性があります。

ソフト自体は所定の要件を満たしているため、その他の要件を満たすことができれば、電子帳簿保存法を活用することが可能と考えられます。

【自社が発行】「クラウド会計ソフトのシリーズ以外」を使用する場合

契約書を自社が発行する場合で、クラウド会計ソフトのシリーズ以外の電子契約システムを使用するとした場合、電子帳簿保存法に基づいて保管するとしたらどのような対処になるか。

例えば、クラウドサイン、GMOサインなどが考えられます。

これらを使用した場合、締結後の契約書データは、それぞれのソフト内のストレージに保管されることになります。

この場合は、電子帳簿保存法の「書類の電子保存」という区分に基づいて、保管する可能性があります。

ソフト自体は所定の要件を満たしていることが多いため(ソフトごとに要確認)、その他の要件を満たすことができれば、電子帳簿保存法を活用することが可能と考えられます。

【他社から受領】書面で受領する場合

契約書を他社から受領する場合で、それが書面である場合、電子帳簿保存法に基づいて保管するとしたらどのような対処になるか。

この場合は、電子帳簿保存法の「スキャナ保存」という区分に基づいて、保管する可能性があります。

重要な留意点として、紙の契約書をスキャナ保存して原本を破棄した場合、その保管データはただのコピーとして扱われることから、民事訴訟法上の証拠能力(評価、取扱い)の点で見劣りするかもしれない可能性があり、今後の裁判所の見解などには留意が必要と考えられます。

【他社から受領】システム(データ)で受領する場合

契約書を他社から受領する場合で、それが電子契約システムを使用するもので、その締結後データをダウンロードして保管するとしたとき、電子帳簿保存法に基づいて保管するとしたらどのような対処になるか。

この場合は、電子帳簿保存法の「電子取引保存」という区分に基づいて、保管する可能性があります。



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