値段を下げれば、ふつうは客が増える。ところが、値段を下げたことで、かえって客が離れていった会社があります。
かつて高級家具の代名詞だった大塚家具は、2015年の経営権をめぐる対立、いわゆるお家騒動で世間の注目を集めたあと、同社は高価格帯から中価格帯へと舵を切りましたが、その方針とは裏腹に、業績は回復せず、2019年にヤマダホールディングスの傘下に入り、2022年5月、ヤマダデンキに吸収合併されて法人としては姿を消しました。
この出来事は、家具業界だけの話ではなく、値段の付け方、もっと言えば「自分の会社は本当は何を売っているのか」という問いを、すべての経営者に突きつけています。
事業家bot著「金儲けのレシピ」(実業之日本社)を参考にして。
ビジネスモデルあれこれ
- 集客より関係性、LTVが商売の土台
- 消費者から購入する
- セルフサービス
- スケールメリット、スモールメリット
- 「1対多」
- 両面に課金する
- 砂糖を売る
- 確率を設計する
- 雰囲気を売る
- 意思決定を支援する
- 仕入れを工夫する
- 贈答品を売る
- 高くて良いもの
- 権威になる
- コアファン共鳴型
- 仕組みそのものを売る
老舗が値下げで失ったもの
路線転換と、その代償
大塚家具のかつての売り方は独特で、来店した客に販売員がぴったりと寄り添い、店内を一緒に回りながら、数十万円という高額な家具を選んでいく。
会員制を前提にした、いわば「付き添い型」の接客です。
この売り方は、安い買い物には向きません。
しかし、人生で何度も買わない高額な家具だからこそ、「詳しい人にそばにいてほしい」という需要に応えていたのです。
路線転換は、この売り方そのものを薄めることになりました。
価格を下げて客層を広げようとすれば、1人ひとりに長く付き添う接客は採算が合わなくなります。
結果として、大塚家具は「安い家具を売る店」の一つになり、もともと持っていた強みが霞んでいったという見方があります。
もちろん、業績が悪化した理由は一つではなく、お家騒動によるイメージの悪化、ネット通販や格安家具店との競争激化など、複数の要因が重なった結果だと考えられます。
ただ、価格を下げる判断のなかで、自社の一番の持ち味まで一緒に手放してしまった可能性は、見過ごせないトピックだと感じます。
本当に売っていたのは「家具」だったのか
視点を変えてみます。
大塚家具が売っていたものは、本当に「家具」だったのか。
家具そのものなら、同じような品質のものは他店でもネットでも買えます。
それでもわざわざ大塚家具に足を運んだ人がいたのは、家具に加えて「選ぶ過程の安心」を買っていたからではないかと考えられます。
何を基準に選べばいいか分からない。
高い買い物で失敗したくない。
そういう不安に、専門知識を持つ販売員が寄り添ってくれる。
その安心こそが、価格に上乗せされていた「もう一つの商品」だったのではないか。
値下げによって失われたのは、家具の利益だけではなく、この「安心を売る仕組み」そのものだったのかもしれません。
人は「自分で選べない」ことに悩んでいる
では、なぜ「選ぶ過程の安心」が商品になりうるのか。
「選び方が分からない」という大きな需要
世の中には、情報をすべて自分で調べて、最適なものを選び取れる人がいます。
一方、調べ方そのものが分からない・調べる時間も気力もない、という人も大勢います。
そして後者の人たちは、しばしばこう思っています。
「誰か詳しい人に、決めてほしい」
この「決めてほしい」という気持ちは、軽く見られがちですが、非常に大きな需要です。
保険を例にすると分かりやすいかもしれません。
ネットですべて完結し、自分で比較して契約できるサービスがある一方で、店舗に出向いて担当者に相談しながら決める窓口型のサービスも根強く支持されています。
後者を選ぶ人は、「自分では選べないから、人に相談して決めたい」という層です。
同じ保険を扱っていても、この2つの業態では、客1人あたりから生まれる利益の大きさが変わってくると言われています。
人が間に立って関与するほうが、相談料や安心料に相当する価値が乗りやすいからです。
ネットで完結する業態と、人が介在する業態
自分で選べる人にとっては、人が介在しないぶん安く速いネット完結型が向いています。
選び方が分からない人にとっては、寄り添って決めてくれる対面型が向いています。
問題なのは、対面型の強みを持っていた会社が、価格だけを見てネット型・量販型の土俵に降りてしまうことです。
それは、自分が一番得意だった戦場を捨てて、苦手な戦場へ出ていくようなものです。
大塚家具の路線転換には、その構図が重なって見えます。
”付き添い型”という独自の強みを、価格競争という別のルールの土俵で薄めてしまった。
自分の会社の「本当の商品」は何か
関与の価値を、安売りしていないか
中小企業の多くは、大手やネット通販に価格で勝つことはできません。
だからこそ、価格以外で選ばれる理由を持つ必要があります。
その有力な候補が、「人が関与すること」そのものの価値です。
相談に乗る、一緒に考える、不安なときにそばにいる。
こうした関与は、目に見えにくいため、つい無料のサービスのように扱われがちです。
しかし、お客様がお金を払っているのは、商品そのものだけでなく、「この人に相談しながら決められるという体験」に対してでもあります。
ここを安売りしてしまうと、大塚家具のように、自社の一番の強みごと値崩れを起こしかねません。
自分の会社が本当に売っているものは何か。
商品やサービスの裏側にある価値を言葉にできているか。
一度立ち止まって棚卸ししてみる価値があります。
「介入」ではなく「伴走」として使う
ここで一つ、注意しておきたいことがあります。
人の決断に関与できる力は、強い力です。
強いからこそ、使い方を誤ると、客にとって本当は不要なものを買わせる方向にも働いてしまいます。
短期的には、それでも利益は出るかもしれません。
しかし、お客様は、いつか”うまく乗せられた”と気づいたとき、信頼は静かに離れていきます。
長く選ばれ続ける会社は、関与する力を「介入」ではなく「伴走」として使っている会社だと考えています。
客に代わって決めてしまうのではなく、客が自分で納得して決めきれるように、隣で支える。
決断のハンドルは、あくまで客自身に握らせる。
この線引きを守れるかどうかが、関与する商売を続けられるかどうかの分かれ目となります。
値下げの前に問うべきは、「いくらまで下げられるか」ではなく、「自社は何を売っているのか」かもしれません。
その問いに自分の言葉で答えられたとき、価格競争とは別の道が見えてきそうです。
